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大学の魅力って?

渡辺治先生

計算機科学者 元・東京工業大学理学部情報科学科、現・工業所有権情報・研修館理事長

私は、大学の最も魅力的なところは、自分のやりたいことを追求できる環境を得られる点だと思っています。もちろん、大学以外でも、何かを究めることは可能です。けれども、大学では、それが、より自然にできる、そのための知識や機材や支援(つまり「環境」ですね)、そして機会と時間が得られやすいのです。どの大学でも、どの分野でも、自分がその気持ちで臨めば得られるはずです。

 

では、追求できる環境ってどんなものでしょうか?私が生きてきた理系分野では、いわゆる「研究室」が、追求の場であり、そのための環境が得られる場であることが多いです。では、その研究室とはどんな所でしょうか?それは千差万別です。研究分野によっても大きく異なりますが、研究室を運営する教員ごとに様々なスタイルになるからです。研究室は多くの場合、教授や准教授が少数のスタッフと切り盛りする個人商店のようなものです。その商店主の考え方が研究室のスタイルを決め大きな要因になるのです。

 

少しのんびりとした雑草学研究室

 

そんな研究室の中でも、私が「いいなぁ」と思える研究室とそこでの学生さんたちとの研究の日々を垣間見れるのが、『雑草教室』です。主題は、雑草と呼ばれる身近な植物の謎の解明なのですが、それだけでなく、舞台となる雑草学研究室がうまく描かれています。

 

 

この雑草教室のように、先生と学生が研究を色々なところに寄り道しながら楽しむ研究室が、私が学生だったころは、かなりの割合でありました。今は、もう少し効率的な研究スタイルが増えてきた気がします。それはそれで、研究環境の改善につながる良い点も多いですが、残念なところもあり、だから、少しのんびりとした雑草学研究室に「いいなぁ」と感じたのです。なお、私の周辺でも、こういうスタイルの研究室運営をしている先生は、まだまだ結構います。

 

それに対して、『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』を読むと、東京藝術大学という大学全体が独特のスタイルを持ち、その下で、個々の探求のための環境を提供しているように感じました。これは私にとって新鮮な衝撃でした。こういう大学もあるのですね。

 

 

『雑草教室 図鑑が教えてくれない植物たちのひみつ』

稲垣栄洋(中公新書ラクレ)

[出版社のサイトへ]

 

『雑草教室』の学問分野を見てみよう

環境農学(含ランドスケープ科学)

生物資源保全学

植物保護科学

 

最後の秘境、東京藝大:天才たちのカオスな日常』

二宮敦人(新潮文庫)

[出版社のサイトへ]

 

東京芸術大学の学問分野を見てみよう

美術史

芸術実践論

美学・芸術諸学

 


やりたいこと探しができるのも大学

 

ところで、何を追求したいかが定まっていない、という人も多いでしょう。焦る必要はありません。自分のやりたいこと探しができる環境を提供してくれるのも大学の良い点です。私も、大学入学時には矢野健太郎さんにあこがれて、数学者になりたい、と漠然と思っていたのですが、数学が学問としてどんなものなのかもよくわかっていませんでした。

 

そんな自分の未熟さに苛立ちつつ、数学にはどんな分野があるのかを探すために、1年生の夏休み、大学の図書館をうろうろしていました。そんな時に、たまたま『計算の理論』※ という、とても不思議な本に出合いました。それがきっかけで「計算の理論」というコンピュータサイエンスの中の基礎理論(いわば数学)の分野を専門にすることになったのです。

 

※『計算の理論』(M. デーヴィス著/岩波書店)

 

 


様々な追求のかたち スキーに生きた半生の記録

 

最後に大学以外の場での「究める」についても一言。最初にも述べたように、何かを追求する場は大学には限りません。多くの方々が、様々な追求の日々を送っておられますし、それを紹介する本も結構ありますよね。それに加えて、私も、是非一冊、本を紹介させてください。それは『新版 雪に生きる』 です。猪谷六合雄さんが、スキーに魅せられ、スキーを追求した半生を綴った本の復刻版です。スキーを追求するために、雪を求めて赤城から点々と旅をして千島まで行き、さらに乗鞍では、ほぼ家族だけでスキー場を開拓するなど、スキーに生きた半生の記録です。

 

ちなみに、1956年のコルチナ・ダンペッツォオリンピックの回転競技の銀メダリスト(いまだにアルペン競技では日本で唯一のメダリスト)の猪谷千春さんは六合雄さんの息子さんです。千島で春に生まれたから千春と命名したと本に書かれていました。単なるスキーですが、それを究めるための生き方の工夫が淡々と描かれており、それが心を打ちます。

 

『新版 雪に生きる』

猪谷六合雄(カノア)

[出版社のサイトへ]

 


渡辺治先生 プロフィール

中学時代からコンピュータにのめりこみ、大学に入ってからは、その神髄の「計算」とは何かを、ずうっと研究してきました。基礎学問の畑をずっと歩んできたのですが、60歳を境に自分自身が研究する立場からは卒業し、研究を支援する仕事にうつりました。以来、基礎から応用まで、「研究って、こんなに素晴らしいんだ」と人々に思ってもらえる社会を目指して活動しています。

 

渡辺先生の学問分野を見てみよう

 →情報学基礎理論

 


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