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大学の研究者も注目! 謎の蜃気楼「不知火(しらぬい)現象」を教室で再現

36年ぶりの観測にも成功!

熊本県立宇土高校 科学部地学班 部長 2年 米田直人さん

熊本県立宇土高校の科学部地学班では、7年にわたり、地元・不知火海で見られる不知火現象発生のメカニズムの解明に取り組んできました。そして2024年9月には、地元漁協の協力を得て、36年ぶりに、屋外での不知火観測に成功。「不知火研究なら宇土高校」として、大学の研究者たちからも注目されています。

(2024年12月取材)

科学部地学班のメンバー。前列で賞状を持っているのが、部長の米田さん

(熊本県の理科研究発表会で最優秀賞を受賞したときの様子)

 

 

シミュレーションや実験を繰り返し、再現に成功!

再現の動画撮影は世界初

 

―科学部地学班の活動内容と特徴をご紹介ください。

 

現在、地学班には1年生が4名、2年生4名、3年生4人が所属しています。不知火をはじめ、阿蘇山噴火でできた赤い凝灰岩「馬門石」や、江戸時代に起こった日本最大級の火山津波災害など、地元ならではの研究を行っています。地学だけでなく、他の理科科目や、地理や歴史、地震や津波などの災害を含め、総合的に取り組んでいます。不知火の研究は、今年で7年目になります。

 

また、大会、地域の学習会など、校外での活動の機会が豊富にあります。大学の研究者が集まる日本地球惑星科学連合大会、日本地質学会、日本気象学会、日本物理学会、日本陸水学会、日本蜃気楼協議会などの高校生部門で発表しました。発表はポスターセッションが中心で、研究者の方から質問やアドバイスをいただくこともできます。

 

 

―不知火とはどんな現象ですか。

 

不知火とは、八朔(旧暦の8月1日。2024年は9月3日)の前夜に、熊本県の八代海(不知火海)で見られるとされる蜃気楼のことです。対岸の街明かりなど、何かの光が盛り上がって見え、さらにその光が横に分かれたりつながったりして見えるとされています。横方向に光が変化する蜃気楼を側方蜃気楼といいますが、世界的にも不知火でしか見られません。不知火現象が起こる理由は解明されていません。しかも、不知火現象について調べたところ、現在まで40年近く観測されておらず、昔は妖怪のしわざと考えられていました。

 

教室内での、不知火の再現実験の様子
教室内での、不知火の再現実験の様子

 

―どのような研究を行っているのですか。

 

これまでに、不知火の野外観測、光路シミュレーション、流体シミュレーション、シリコンラバーヒーターを用いて作成したオリジナル装置による再現実験などを行ってきました。シミュレーションと再現実験を相互に活かしながら、よりリアルな再現を目指してきた結果、昨年、側方蜃気楼や不知火の再現に成功しました。明瞭な動画、画像の撮影は世界初です。

 

この結果から、不知火の発生条件は、海面水温と気温に十分な温度差があること、海と陸地の境界が直線的であること、視線方向の微風があることがわかりました。これによって、複雑な気温分布をした空気の層が生じ、不知火現象が生じます。また、観測場所は、光源が見える、海岸より少し高い場所が適しているとされ、その理由もわかりました。

 


 

 

地元漁師に夜、船を出してもらい

不知火現象の観測ができた

 

―謎が科学的に解明されたというわけですね。

 

ただ、気象学会で発表をした際、「実験では左右の温度差が作れるけれど、現実の環境では左右の温度差は生じないのではないか」という指摘をいただきました。

 

そこで今年は不知火海を地形学的に考察し、不知火海には直線的な海岸線と広大な干潟があること、干潟の陸地部分と海水との間で左右の温度差が生じることがわかりました。こうした条件が揃う場所は、日本では不知火海だけでした。

 

 

―40年も観測されなかった不知火現象ですが、どのように観測にたどり着いたのですか。

 

不知火現象が、見られなくなった原因としては、干拓などによる地形の変化や温暖化による八朔の時期の降雨量の増加なども考えられます。しかし、見られなくなったのが不知火海で夜に漁が行われなくなった時期と重なることから、現在でも漁火があれば、観測できるかもしれないと考えました。

 

ちなみに漁火とは夜の漁で船に灯す明かりのことで、この光に魚が集まってきます。この漁火が、不知火現象が起こる元の光なのではないかと思ったのです。

 

八代漁業協同組合に協力をいただいての、不知火観測の様子

(熊本県宇城市不知火町の永尾剱神社の観望所にて)

 


 

そこで、地元の八代漁業協同組合にご協力いただいて、八朔の晩に、漁師の方に光路シミュレーションに基づいた場所でLEDライトを照らしていただいて観測しました。大潮の干潮時刻頃である9月3日の3時頃、36年ぶりの不知火現象の観測に成功しました。

 

映像記録を見ると、数分間にわたって1つしかないはずの光が、横に2つになったり、3つになったりと変化している様子が確認できました。

 

36年ぶりに観測された不知火。 2024年9月3日午前2時50分
36年ぶりに観測された不知火。 2024年9月3日午前2時50分

 

―熊本県の理科研究発表会で最優秀賞を受賞するなど多くの賞を受賞し、マスコミにも大きく取り上げられましたね。

 

これまでの先輩方の努力が実を結んだと思うと嬉しかったです。報道を通して、不知火や不知火に関わる環境問題についてより多くの人に関心を持っていただけたらいいですね。

 

不知火研究の発表ポスター (令和6年度第84回熊本県科学研究物展示会への出品物)
不知火研究の発表ポスター (令和6年度第84回熊本県科学研究物展示会への出品物)

 

 

クラウドファンディングで資金集め

みんなの応援を感じる

 

―研究は、どんなところが大変でしたか。

 

自分たちで装置の作成、実験方法を模索したことです。また、漁協の方に協力をお願いし、夜通し写真や動画の撮影、データの収集をするので、一般の方にも、私たちの活動内容や観測の意義について理解して共感していただく必要がありました。そのために、わかりやすく説明したり、資料を作成したりするのが大変でした。

 

 

―研究の資金は、クラウドファンディングで募集したんですよね。

 

学校の資金では、漁協の方への謝礼や観測に必要な機器を買うお金が足りなかったのでチャレンジしました。目標の50万円を超える79万1000円を投資していただき、多くの方に応援していただいていると実感しました。

 

 

―今後の研究計画を教えてください。

 

不知火が八朔の時期にのみ見られる理由の解明と、より明瞭な不知火の肉眼での観測です。そのために、たとえば、漁港に自作の海水温を計る装置を設置させていただいて、海面水温の計測をしています。気温は気象庁の観測データがありますが、局所的な海水面付近の水温データはないので、自分達で観測することにしました。

 

 

―そうやって、後輩に研究が受け継がれているんですね。最後に、米田さんが大学で学びたいことを教えてください。

 

不知火の研究を通して、気温や海水温、天気などに触れたことから、大学では気象関係を学びたいと考えています。

 

 

―大学で学ぶのが楽しみですね。これからも科学部の活動に注目しています。

 

大学の研究者の発表の場、日本陸水学会の大会にて。宇土高校も発表しました。
大学の研究者の発表の場、日本陸水学会の大会にて。宇土高校も発表しました。
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