第88回情報処理学会全国大会 第8回中高生情報学研究コンテスト
脳の仕組みをヒントに開発!ノイズに強くて賢い「次世代の小さなAI」
海城高等学校(東京都)
チーム名:海城高等学校生物部
メンバー名:走出慧太さん(1年生)
(2026年3月取材)
HDT-AD: 超高次元変換による頑健かつ適応的な時系列異常検知
脳の「小脳」をモデルにした新しいAIであるHDT-ADを提案します。従来のAIは計算が重くて、ノイズに弱い欠点がありましたが、この手法は、データを特殊な計算で処理することで、過酷な環境でも壊れず、小さなチップでも高速に動きます。実験では、ノイズ混じりのデータでも正しく判断できる適応力を証明しました。災害現場や医療など、一瞬の判断が求められる「エッジ(現場)」での活用が期待される、実用性の高い次世代技術です。
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◆今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。
この研究を始めたきっかけは、Dewulf らの Hyperdimensional Transform(HDT)に関する論文を読んで、純粋に「これは面白い」と感じたことです。
HDT は、関数や分布を高次元ベクトルとして表現するための新しい理論で、Hyperdimensional Computing(HDC)に数学的な基礎を与えるものとして提案されています。私はそこから HDC 自体にも強く興味を持ち、関連する理論や先行研究を学びながら、「この枠組みを時系列異常検知に応用したらどうなるか」を考えるようになりました。
HDC は、高次元ベクトルを使って情報を分散表現し、bundling や binding などの演算で構造を扱う計算パラダイムです。一方で HDT は、そのような高次元表現に対して、より厳密な理論的説明を与える積分変換的な枠組みです。私の研究では、HDC の持つ軽量性やノイズ耐性と、HDT の持つ理論的基盤の両方を活かしながら、時系列データを扱う異常検知手法として HDT-AD を設計しました。ポスター発表ではその基本構想と初期実験を示し、その後さらに理論面と評価面を発展させた論文をまとめ、現在は査読中です。
特に私が面白いと感じたのは、HDC が持つ独特の表現力を、HDT によってより滑らかで理論的に整理された形で扱える点でした。そこから、単に既存手法を真似るのではなく、自分なりに時系列の形状情報と統計情報などを統合し、オンラインで更新可能な異常検知アーキテクチャへ発展させました。コンテストで発表したものはその最初のまとまった成果であり、その後の研究ではさらに多くのデータセットや理論解析を加えて発展させています。
◆今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。
ポスター発表に至るまでに、先行研究の調査、手法設計、実装、実験、ポスター作成まで含めて3か月程度かかりました。特に、単に動くプログラムを作るだけでなく、どのような条件で本当に有効なのかを確認するために、比較実験やデータの見直しに多くの時間を使いました。
また、コンテスト発表後も研究を継続し、理論の整理や大規模な評価を追加して、発展版の論文へとまとめ、今年3月に提出しました。そのため、合計でおよそ5か月をかけた研究です。
◆今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。
特に苦労したのは、「軽さ」「ノイズへの強さ」「環境変化への適応」という3つを同時に満たすことでした。どれか1つだけを見るなら比較的単純でも、3つを同時に成立させようとすると、別の部分が崩れやすくなります。たとえば、新しいデータにうまく適応させようとすると、本当の異常まで正常だと学習してしまう危険がありますし、逆に慎重すぎると環境変化に追いつけません。
また、研究としては、手法そのものを考えるだけでなく、比較の仕方にも苦労しました。異常検知では評価の仕方によって印象が大きく変わるため、公平な条件で比較しないと、本当に見たい差が見えなくなります。そのため、どういう条件で比べるべきか、どのデータで何を示すべきかを整理するのに時間がかかりました。
さらに、HDC や HDT は一般にはあまり馴染みのない考え方なので、理論的には面白くても、それをポスターの限られた紙面で分かりやすく伝えることにも苦労しました。
◆「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。
一番見てほしいのは、「現場で本当に困る条件」を先に置いて設計した点です。私は、平均的な精度だけで手法を評価するのではなく、ノイズがあるときにどれだけ壊れにくいか、時間とともに環境が変わっても監視を続けられるか、長く異常が続いたあとに復帰できるか、という点を重視しました。
技術的な工夫としては、時系列の形状と統計的な特徴を、超高次元の表現の中で統合して扱えるようにしたことです。さらに、モデル本体の更新と、異常判定の基準となる統計の更新を分けることで、変化には追従しながらも、異常に引きずられて判定基準が壊れることを防ぎやすくしました。この部分は、自分の中でも特に独自性が大きい点だと考えています。
また、過去データを大量に保存しなくても、代表となる情報をコンパクトに持ち続けられるようにしたため、限られたメモリで長時間動かしやすい手法になっています。単に新しいアイデアを出したというより、「実際に小さな計算資源でも動かせること」を意識して組んだところも工夫した点です。
◆今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことがあれば教えてください。
HDT-AD については、今回の学会発表と、その後にまとめた発展版論文でひとつの区切りにしたいと考えています。そのうえで今後は、実世界のデータや自然科学系の理論を土台にした、より分析寄りの応用研究に取り組みたいです。
私は、研究では「新しいことを言う」だけでなく、「どういう条件で有効で、どこで破綻しやすいのか」をきちんと示すことが大切だと考えています。今後も、精度だけを追うのではなく、現実の制約や失敗のしかたまで含めて考えられる研究を続けたいです。実際のデータに深く向き合いながら、理論と応用の両方に意味のある仕事をしていきたいと思っています。
※走出さんの研究は、優秀賞を受賞しました。
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